前回からの電話カウンセリングから一週間後、勇樹さんからご相談がありました。
奥さんとの折り合いがつかず、いろいろ考えて離婚しようかと思っているとのことでした。
「もう離婚しかない」
という奥さんの頑固さに、彼も苛立ちを隠せず、子どもを引き取るのは難しそうだし、なんだか自分だけが損するようで、面白くない・・取れるものは取っておきたい、という気持ちから勢いで裁判を提案したそうです。
しかし、お話を聞いていくと、本当は離婚したくないし怒らせてドロドロしたらもう戻ってこないかもしれないという気持ちと、今のままじゃ自分だけが損をしてなんだか悔しいという気持ちがせめぎ合っているようでした。
友達にも何人か相談したようなんですが、なかなか彼の気持ちを分かってくれなかったり、正論を言われてしまったりと、気持ちを理解してもらえない孤独感を感じているようでした。
こういうときは、なるべく勇樹さんの気持ちに寄り添うようにお話を聞いていきます。今感じていることを理解し、ただ聞いてあげるだけでも心に安らぎが生まれるのです。
なので、こんなふうにお話しました。
「お友達の意見の中には、もちろん正しいことだってあると思います。だけれど、なるべく、勇樹さんが今感じている気持ちを大事にしてあげてほしいんです。
なるべくなら離婚したくない気持ち、でもなんだか面白くないし裁判したいと思う気持ち、でもそれをしたら嫌われてしまうかも・・という気持ち、どれもあって当然だと思います。
私たちの心って空みたいなんです。晴れてる日もあれば、曇りの日も雨の日もあります。その時によって、心はすごく変化するんです。
なので、今自分はこんなふうに思ってるんだなーっていうように、今感じている気持ちを認めてあげてください」
気持ちをいっぱい吐きだしたことでスッキリされた勇樹さんは、最後に、離婚して今の仕事をやめ地元に戻ったときにどんなことをしようか考えている、とお話してくれました。
その声からは少しワクワクしている様子が伝わってきて、「心の中ではしっかりと希望が生まれているんだな」と感じたのが印象的でした。
もちろん、奥さんと離婚したくないという気持ちはあるんですけれど、最悪の状況のときに、明るい未来を描けるというのはとても大事なことなんですね。
最後には「とりあえず、明日、裁判所に行ってこようと思います!」と元気を出されていました。
*
次の日、勇樹さんから報告がありました。
覚悟を決めて裁判所に行くと、もうこれで本当に離婚するんだな・・と込みあげて来るものがあったそうです。
家に帰ると奥さんが離婚届を用意していました。判を押している姿を見て、「もう終わった・・」と思ったそうです。
その後、2人で離婚について話し合ったそうです。
養育費、会う回数、これからのこと・・
話していくうちに、彼女のお子さんに対する気持ちを知りました。
「子どもを引き取るんだったら、私は女を捨てる」
と彼女が言った言葉・・
それは、勇樹さんが初めてカウンセリングに来たときに言っていたことと同じでした。
親として子を思う気持ちが一緒だったことが、彼にとってとても嬉しかったようです。
そのとき、思わず涙を流し、奥さんの手を取って、「こいつを頼むな」と伝えたそうです。
それは、お子さんに対する気持ちを通して2人が繋がった瞬間でした。そして、自然と奥さんを許している自分がいたことに気付いたそうです。
「なんか離婚てもっとドロドロなもんかと思ってました。一緒にはいられないけれど、嫁さんを信じてみようかと思います。円満に離婚ができそうな感じです!」
と彼はメールで嬉しそうにおっしゃっていました。