それから3週間後、突然、勇樹さんから相談がありました。
どうやら奥さんから、
離婚ではなく別居にしない?
と言われたようです。もうすっかり離婚するつもりでいた彼は、その提案にただただ困惑してしまったそうです。
「離婚したらいっぱい自分の好きなことをして楽しんでやる!」
と、これから先を考えていたところに言われたので、
「え、ちょっと待って」
となんだか素直に受け入れられない様子…・・
彼女がいなくても大丈夫なようにずっと自分自身に意識を向けてきたので、いざ彼女が戻ってきそうな気配を感じると、逆にそんな違和感を感じるようになります。
それでも、「奥さんがメールをしてると気になってしまう」ともらしていたので、心の奥底では、気持ちはちゃんと彼女に向いていたようです。
この頃には、彼女の口から
「なんだか離婚する意味がわからなくなってきた。やっぱり子どもにはお父さんが必要だし・・」
という言葉も出てきて、彼女自身だいぶ冷静になってきたようでした。
告白された女性に対しては、あまり連絡はとらず、距離を置いている状態でした。
勇樹さんの中で「また同じことを繰り返したくない」という気持ちが強かったそうです。
この頃には、奥さんとお子さんの3人で出かけることも多くなったそうで、家族としての交流も深まっていたようです。
そして、あるとき、結婚後、初めて奥さんと2人っきりで出かける機会があったそうです。
それは言わばデートのようなものだったそうで、まさに1年半ぶりのこと。
口では「別に普通でしたよ」というものの、話しぶりがなんだか嬉しそうでした。
また、久しぶりに地元の友達と遊び、「バカみたいにはしゃいですごく楽しかったです!」と話す彼は、年相応のやんちゃさも出てきて、とても充実している様子がうかがえました。
*
さて、この時点で、心理的な抵抗が強かったのは勇樹さんの方でした。
奥さんを信用しきれなくて、疑う気持ちが強かったのです。
また、浮気された直後のような彼女を強く求める気持ちがないため「昔より好きが薄れている」と不安になるそうです。
それは、カウンセリングを通して彼女に対する執着を手放していった結果なのですが、逆に「奥さんに対する愛情が薄れたのかな?」と感じてしまうようです。
なので、今回は奥さんと向き合い、受け入れることをメインにセラピーをしていきました。
近付いてくる彼女を受け入れ、受け止める、そして新たな関係を作っていくようなイメージワークです。
イメージの中で、彼女と向き合ってもらうと、最初に出てきたのは「恥ずかしさ」でした。
こんなふうに、「恥ずかしさ」が出てくるのは、2人の間にもう一度ロマンスがやってくるサインでもあります。
彼女が勇樹さんに近付いてきたとき、徐々に許しの気持ちがでてきました。
しかし、手の届く距離に近付いたとき、ものすごい抵抗感が出てきて、一定の距離をあけたままそれ以上近付けなくなってしまいました。
この一定の距離は、2人の心の距離を示していました。もともと2人は夫婦になりきれていませんでした。
もちろん、法律的には夫婦なのですが、お互いの心には、どうしても埋められない距離があったんです。
そして、その距離を埋めないまま夫婦生活を続けていたことで、どこか遠慮がちで我慢しやすい関係を作りだしてしまいました。
それが浮気という問題にまで発展してしまったのです。
そこで、その抵抗感を取り除くようなイメージワークをしていきました。
勇樹さんが感じている抵抗感をイメージの中で物質化してもらいます。すると「コンクリートの50mくらいの高い壁」と出てきました。
イメージの中で、その壁をなんとか通り抜けられるようにしていきます。
通り抜けた後は、
「なんだかスッキリしました!
今なら奥さんに近付けそうです」
と、思ったよりもすんなりと彼女を受け入れる準備ができました。
ちゃんと彼の心の奥底では奥さんを許し、受け入れる気持ちがあったんですね。
そして、イメージの中で彼女を受け入れていくと、どこか久しぶりのような気がして、嬉しく感じている勇樹さんがいました。
イメージワークを終えた後は、まるで一仕事終えたような脱力した顔をしていました。それを見たとき、もうカウンセリングに来なくても良さそうだなぁと感じたのを覚えています。
11.エピローグ 〜訪れた転機〜 へ続く