Real Counseling

カウンセリングの実際

00.

プロローグ

結婚3年目の勇樹さん。

半年くらい前から奥さんの様子がなんだかおかしいと感じるようになった。

付き合ってから2カ月で子どもができ、それを機に2人は結婚。

勇樹さんの仕事の関係上、家を空けることが多いため、奥さんの実家に入ることになった(いわゆる、ますおさん状態)。

結婚式の1ヶ月前から勇樹さんの仕事が忙しくなってしまう。

その頃からセックスレスとなり、次第にスキンシップも無くなっていった。

どこかお互いに距離を感じる中、お子さんが生まれる。

そして、奥さんは産後うつに……。

勇樹さんは仕事が忙しく、奥さんのケアはなかなかできずにいた。

また、その頃は育児にも積極的ではなかった。

次第に奥さんに男の影がみえるようになる。

そして、あるとき、秘密のノートを見てしまったことをキッカケに浮気が発覚した――――。

01.

浮気発覚のショック

初めに勇樹さんからご相談いただいたのは、電話カウンセリングでした。

最近、奥さんの様子がなんとなくおかしいなと思っていたそうです。

そして、ある夜、彼が寝はじめた頃を見計らって、彼女が何かを引き出しから取り出して寝室から出て行く、ということがありました。

奥さんがいないときに、こっそりその引き出しを開けてみると一つのノートがありました。

そこには浮気相手との交際内容が赤裸々につづられていました……。

ショックで呆然とすると同時に、どこかで、『やっぱりな』という感覚があったそうです。

というのも、少し前から彼女が浮気をしているんじゃないかと思う節があったからでした。

彼女の携帯には勇樹さんは『カス』という名前で登録されていたり、facebookでは自分の悪口が書かれていたりと、愛されていないと感じる要素がたくさんあったそうです。

ノートについては、まず奥さんのお母さんにご相談されました。

お母さんからは

「私から浮気は辞めるよう話しておくから、このノートのことは言わないように。言うとしたら、それは離婚を踏まえた上でね」

と。

ですが、彼女が携帯をいじるたびに不安や疑いの心でいっぱいになってしまいます。

それに耐えられず、どうにか解決策はないだろうかといろいろ調べた結果、カウンセリングを受けようと決心されたそうです。

電話の向こうから、事実を淡々と話す勇樹さんの声はどこか冷静で、嫉妬で怒り狂ったり、浮気をするなんて信じられないと悪態をついたりする様子は全くありませんでした。

しかし、その裏には怒りややるせなさ、悲しみを抑えている様子がどことなく伝わってきました。

それでも、「今の状態を何とかしたいんです。どうしたらいいんでしょう」と解決策を望む勇樹さんは、明らかに自分を見失っているようでした。

勇樹さんに限りませんが、こういった浮気や普段起きないような問題が起こるとパニックを起こしたり、不安や悲しみで心が押しつぶされそうになります。

なので、こういうときは、なるべく気持ちに寄り添うようなアプローチをしていきます。

今、どんなことを感じているか? どんな気持ちを抑えているか? など、まずは話をじっくり聞き、心の負担を軽くしていくことが優先です。

勇樹さんには今抱えている気持ちを吐き出していくために、宿題として奥さんへの手紙を2通書くことを提案しました。

一つは出さない手紙。そこには、恨みつらみ、文句……何を書いてもいいので、とにかく思っていることを書いてくださいとお願いしました。

もうひとつは奥さんに見せる用の手紙です。

本当は奥さんとどういう関係になりたいのか、本音ではどう思っているのかなど、普段口では伝えられない本心を書いてくださいとお願いしました。

感情は感じてあげると勝手に解放されていきます。

話す、書くなど表現することは、気持ちを感じるのと同じこと。

それだけで心が軽くなったりするのです。

勇樹さんは、「わかりました、やってみます」と承諾してくださり、初めての電話カウンセリングは終了しました。

02.

奥さんが浮気に至るまで 〜浮気の原因とその背景〜

2回目のカウンセリングは面談でお越し下さいました。

勇樹さんのお話を聞いていくと、奥さんが浮気に至った要因がだんだんと浮き彫りになってきました。

まず、お二人はセックスレスの状態でした。

結婚式の準備が一番忙しくなるころから、勇樹さんのお仕事も忙しくなってしまい、この頃から次第にスキンシップやセックスレスになっていったようです。

セックスレスは浮気を作りだす大きな要因になります。

家庭でセックスを得られなければ、男性は外に「女」や「セックス」を求めます。

それを物語るように、セックスレスになってからしばらくすると、勇樹さんが浮気をしました。

浮気相手とのメールのやり取りが奥さんに見つかり、ちょっとした離婚騒動になりました。

幸い身体の関係はなかったので離婚には至りませんでしたが、このことから彼に対する不信感が高まったようです。

浮気は女性としての自信を根底から覆すような出来事です。

自分に魅力がないんじゃないだろうかと自己嫌悪に陥る方も少なくありません。

それを裏付けるかのように、出産後、奥さんは産後うつになってしまいました。

うつ状態になると、例えようのないしんどさや心細い思いを味わいやすくなります。加えて、慣れない育児をしなくてはいけません。

このときに夫婦として支え合えればまた違ったのかもしれませんが、勇樹さんは仕事がとても忙しく、育児にも積極的ではなかったそうです。

このことがさらに不信感を募らせ、奥さんの浮気を誘発してしまったのかもしれません。

しかし、話を聞いていくと、勇樹さんご夫婦の浮気を生んでしまう一番の原因はコミュニケーション不足でした。

2人の間に『我慢』や『遠慮』がいっぱいあり、相手に不満があってもそれを伝えない、ケンカもあまりない状態で、お互いに言いたいことを言い合えていない様子。

そのことを勇樹さんに聞いてみると、確かに、奥さんに不満や思ったことを素直に言えずにいると返ってきました。

「すごく好きすぎて、嫌われるくらいなら言わない方がいい、自分だけ我慢すればいいと思っています」

と。

彼の中には嫌われたくないという大きな怖れがあったんですね。

奥さんは彼の浮気をキッカケに責めたり、強気でものを言ったりするようになったそうです。

すると、(浮気をしてしまった手前、責められて当然と思っているせいもありますが)言葉が
出てこなくて、何も言えなくなってしまうのだそうです。

次第に彼の立場は弱くなっていきました。

何も言い返してこない姿が、だんだんとの彼女の目に頼りなく映るようになっていったのか、今度は彼女の方が「男」を外に求めるようになりました。

基本的に、浮気は不足原則から起こります。

不足原則とは、相手からもらえないものを他の人からもらおうとする心理のことです。

勇樹さんが浮気したときは、セックスレスとなったことによって、奥さん以外の人に「女」を求めるようになりました。つまりこの時点では、彼の立場は強かったのです。

そして、浮気がばれたことをキッカケに彼の立場は弱くなり、すると必然的に奥さんの立場は強くなっていきます。

彼に対して不信感や頼りなさを感じる分、別の男性に「男」を求めるようになります。

そして、だんだんと意識が外に目が行くようになり、浮気という行動に至ったようです。

また、彼女の中には大きな孤独感がありました。

後で彼女は浮気についてこう語ったそうです。

「ただ、逃げたかった。今は子育てしかしてなくて、楽しみといったらたまにの飲み会だけ。だから、この現実から逃げたかったの」と。

お子さんが小さい主婦の方は、社会から切り離されてしまったような孤独感を味わいます。

もちろん、主婦のみんながそうとはいいませんが、彼女は特に産後うつを経験した後だったので、人一倍、孤独や寂しさを感じていたのかもしれません。

また、同じように勇樹さんの心にも孤独感がありました。

数年前に地元を離れ、移り住んだ今の土地には友達もいなく、一人寂しい時間を過ごすことも多かったようです。

気の置けない仲間たちと羽目を外すこともできず、仕事と家を往復するだけの日々。

まだ、家庭が安らげる場所であったなら良かったのですが、2人の間はどこかギクシャクしたままで、どこか一人ぼっちのような感覚があったのではないかと思います。

こんなふうにパートナー同士は潜在的に同じ気持ちを抱えやすいのです。

03.

執着を手放す

さて、勇樹さんはすっかり奥さんから男性として見られていませんでした。

そのため、彼女に対してどうしても依存的にならざるを得ません。

しかし、他の男性に目がいってしまっている状態では、彼の存在は彼女にとってうざったく感じてしまうのです。

対して、浮気された方はなんとなく自分を見てもらえていないような、自分だけが相手を好きでいるような感覚がします。

それは、惨めさ、嫉妬、無価値感といったあまり感じたくない感情ばかりです。

まずはこの依存状態から抜け出すことを目標としました。

勇樹さんの中に、奥さんに対する強い執着がありました。

浮気されたことにより、自分がこれほどまでに彼女を好きだったか改めて思い知らされたようです。

執着は相手が逃げないように縛り付ける鎖のようなものです。

鎖は不安の象徴であり、縛られている側は身動きが取りづらく、あまりいい思いをしません。

また、縛り付けている側も、逃げてしまわないだろうかという不安や怖れでいっぱいになり、全く安心できません。

これではお互いに苦しく、幸せとはほど遠い状態です。

なので、まずは彼女に対する執着を手放し、お互いが楽になることを目標としました。

また、勇樹さんの中にはお子さんに対しても強い執着心がありました。

お子さんの話しになると、

「あの子と離れるのは本当に辛いし、離れたくないんです……」

と涙をポロポロとこぼされ、お子さんをとても大事に思っているのが強く伝わってきました。

また、

「離婚して、子どもを引き取ったとしても、絶対再婚はしたくない。子どもには、母一人、父一人だけがいい。」

という強いこだわりがありました。

何かに対しての強いこだわりは問題を解決していく上で妨げとなってしまう場合があります。

『木を見て森を見ず』という言葉のように、物事の一部分に気を取られてしまうと全体が見えなくなってしまい、進むべき方向を見失うことがあるからです。

なので、勇樹さんには、奥さんとお子さんに対する執着を手放すセラピー(心理療法)を提案しました。

「もし、お二人が付き合っている状態だったら、とっくに振られていますよね。

なので、まずは、奥さんを手放し、また新たな関係を始められるように、お互いを自由で楽な状態にさせてあげましょう。

そして、彼女に惚れ直してもらえるように、勇樹さん自身の魅力をアップしていくことを目標としましょうね」

こんな前置きをさせていただき、セラピーに入っていきました。


●奥さんと子どもを手放す

まずは、奥さんへの感情を感じてもらうため、曲を数曲かけていきます。

失恋の痛みを歌ったものです。

セラピーでは、抑圧していた感情を感じられるように、J-POPなどゆったとした曲をかけながら感情を解放させていきます。

彼女をまだすごく好きなこと

もう一度やり直したい気持ちがあること

何でこうなる前にもっと大切にできなかったのか……

すでにお子さんのことで感情が高ぶっていた彼は、歌詞に刺激されて、つぎつぎと涙を流されていきます。

そして、いよいよ奥さんを手放す段階に入りました。

「心の中に奥さんと手をつないでいるイメージをしてください。

お互いが自由になって新しい関係を始められるように、今日は彼女を手放す日だと思ってください。

なので、彼女の幸せのために、辛いとは思いますが、彼女を自由にしてあげて欲しいんです。」

勇樹さん「はい」

「奥さんを幸せにしてくれる神さまが2人の前にやってきた、と思ってください。

そして、神さまに彼女を手渡して、こう言って欲しいんです。

『彼女をお願いします。彼女を幸せにしてやってください』と。できれば口に出していってください」

彼は言葉にするのを少しためらっていました。葛藤が伝わってきます。

奥さんを手放したくない彼にとって、口にするのがとても辛い言葉です。

ですが、彼女を手放すためには必要な言葉でした。

少し経ってから、彼は涙ながらに言ってくれました。

勇樹さん「こいつをお願いします。こいつを幸せにしてやって下さい」

まだ声の中に葛藤がみえました。

まだ、彼女を手放したくない気持ちが残っていたので、「もう一度言ってください」とお願いしました。

勇樹さん「こいつをお願いします。こいつを幸せにしてやって下さい」

今度はさっきよりもハッキリした口調になっていました。

だけれど、まだどこかに葛藤が見え隠れしています。

私「もう一度お願いします」

勇樹さん「こいつをお願いします。こいつを幸せにしてやって下さい」

3回目はしっかりした口調で応えてくれました。

そこから、勇樹さんの奥さんを手放す決心が伝わってきます。手放す準備ができたようです。

「今、神さまが奥さんを連れて、勇樹さんから去っていきます。ゆっくりと、でも、確実に遠ざかっていくの見ながら、それをただただ感じてみてください」

そして、別れた恋人への感傷を歌った曲をかけていきます。

勇樹さんの目からいっぱい涙があふれ出しては流れていきます。
 

曲が終わった後、「今、どんな気持ちですか?」と聞くと、深い息を吐いて「スッキリしました」としっかりした口調で答えてくれました。
 

「今そばに誰かが一緒にいてくれるとしたら、奥さん以外に誰にそばにいてほしいですか?」

勇樹さん「子どもです」

「今ね、少し心にぽっかり穴が空いたような、寂しい感覚があると思うんです。お子さんがあなたの側にきて、『パパ、大丈夫?』って心配してくれるようなイメージをしてください」

そして、すごくお子さんが大事なこと、ずっと守っていきたいと思っていること、そんな気持ちを感じてもらいながら、数曲、曲をかけていきます。

曲が進むと同時に少しずつ勇樹さんの表情は和らいでいきました。
 

そして、次はお子さんへの執着を手放すセラピーを行いました。

その子を心配するのではなく、一人の男として信頼し、そばで見守ってあげられるような父親になる、そんなイメージワークです。

彼はとても素直な芯の強い方だったので、奥さんとお子さんへの手放しもスムーズに進んだようです。

セラピーが終わった後、

勇樹さん
「なんて言ったらいいかわかんないんですけど、すごくスッキリしています。

なんか、嫁も子どもも俺が執着してたことで苦しめてたかもしれないと思いました。

帰ったら、嫁に対しても違った対応ができそうです。あと、最後の曲で自分の好きな仕事をしているイメージが出てきました」

と嬉しそうに話されていました。

実は、勇樹さんにはやりたい仕事があり、地元にいた時はそれに近いことをされていたそうです。
 

30までは他の仕事も経験してみたいと数年前に地元を離れ、今のお仕事に就いたそうです。
 

今の仕事は給料はいいけれど身体がきつく、やりがいを感じられない。

もう地元に戻ってやりたい仕事をしたい……。

そんな想いが最近出てきたそうです。

だけれど、地元に戻るとしたら、奥さんはついてきてくれるかどうかわからないという不安がありました。

実は、心理学には『真実のパートナーと天職(ライフワーク)は同時にやってくる』という格言があります。

彼が好きな仕事に就くということは、彼女が真実のパートナーかどうか見極めやすくなる、ということでもあります。

勇樹さんは今ちょうど、人生の重要なターニングポイントに来ているんだな……と思ったことを覚えています。


そして、面談カウンセリングの一週間後、こんなメールが届きました。

「セラピーの帰り道はすごく楽になって、何故か自然と笑みがこぼれてました。

あれから、嫁に対する態度や気持ちが変わってる自分がいます。

執着心がなくなったからですかね?

ただ、変わりすぎた自分をまだ受け入れられてないってゆうか‥‥。

今の感覚はなかなか慣れないもんですね。

自分ではそんなつもりはなかったんですけど、思ってる以上にため込んでた自分がいました。

だから余計に新鮮と言うかモヤモヤしてるという感じです」

 (※掲載のため少し編集しています)

と自身の変わりように戸惑っているようでした。

 

セラピーでは大きく感情を動かしていきます。
 

『頭ではわかってはいるけれど、感情がついていかない』というように、心は理屈や論理では納得しないのです。

なので、セラピーを通して、感覚として心に理解させる必要があります。

勇樹さんも、大きな気持ちの変化にセラピーの効果を感じたようで、これからじっくりとカウンセリングを受け続けていきたい、とおっしゃっていました。

04.

少しずつ良くなり始めたところから奈落へ 〜ルーツを癒す〜

運命とは皮肉なもので、なかなか当人を安心させてくれないようです。

2回目に面談カウンセリングに来られたとき、状況はますますひどくなっていました。

まず、前回のカウンセリング後、奥さんに手紙を渡したところ、笑顔が増えてよくしゃべるようになり、メールもすぐに返信してくれるようになりました。

手紙にはメールで返事がありました。

浮気については謝ってくれたそうですが、勇樹さんをもう男として見れないこと、でも家族としてやっていきたいと思っていることがつづられていました。

それを見て、彼は少なからずショックを受けたそうです。

でも、『自分を磨いて魅力をアップさせれば、また男として見てもらえますよ』という言葉を希望にして、カウンセリングを受けながらじっくりやっていこうと思ったそうです。

それから10日ほど経ち、まだ奥さんが浮気相手と続いているんじゃないかという気配がありました。

再び秘密のノートを見ると、そこには浮気相手と会ったことが書かれており、頭が真っ白になると同時に、ものすごくショックをうけたそうです。

家族としてやっていきたいと言った彼女を信じていた分だけその衝撃は大きかったようで、もう信じられない、怒りをぶちまけてやりたい、離婚したいという気持ちが込みあげてきました。

しかし、それは怒りに駆られた衝動的な気持ちであって本心ではありません。

やり直したい気持ちもやはり勇樹さんの中にあるのです。

●ルーツを癒す

今回のセラピーでは、勇樹さんの中のもっと深い部分を扱うことにしました。

話を聞いていると、彼は『我慢』や『無理』をしがちで、自分をないがしろにしていることが多かったのです。

それは過去の恋愛でも出ていましたし、普段の生活のちょっとした部分に出ていました。

私たちが無意識的についやってしまう行動を『パターン』と呼びます。

例えば、いつも結婚寸前になると相手と別れてしまったり、いわゆるダメ男ばかりと付き合ってしまうのも、その方が持っているパターンなんですね。

それは育った環境によるものだったり、心の傷となった経験によるものだったりと、必ず原因があります。

勇樹さんの家庭環境を聞いていくと、経済的に苦しい中でも頑張って育ててくれた両親を見ていたことで、彼らに迷惑をかけたくない、自分ができることなら何かしたいという想いを抱えながら育ってきたようです。

なので、高校生の頃から自分のお小遣いはバイトで稼いだり、高校卒業後は働きに出たりと、幼い頃から自立されていたようでした。

その分、どこか実年齢よりもしっかりし、大人びていました。(勇樹さんは当時26歳でした)

この勇樹さんの中にある我慢や無理をするパターンを癒していく必要がありました。

大切な誰かのために我慢をしても、周りは喜びません。

無理や我慢をさせてしまったな……と思うだけです。

あなたが幸せになった姿を見て初めて、周りは、「ああ、良かったなぁ」と喜ぶのです。

なので、まずはあなたが幸せになることを目指してほしいと、彼にはこんなふうにをお伝えしました。

「勇樹さんは、どこか頑張りすぎてしまったり、無理をしてしまう部分がありますよね。

自分だけが我慢すればいいやと、ご自分を大切にされていない面があるんです。

そして、お話を聞いていると、奥さんもどこか同じように我慢しがちです。


今の現状は、そうやってお互い自分が我慢すればいいやと、言いたいことを言わなくなった結果でもあります」

勇樹さん

「確かに今まで自分だけが我慢すればいいかって思うことはたくさんありました。
 

そして、色んな友達に相談してわかったんですけれど、うまくいってる家庭って、お互いが言いたいことを言い合えてる夫婦みたいで、それはうちらにはなかったなぁと思いました」

そして、彼の我慢や無理してしまうパターンを癒せるようなセラピーをしました。

それは、インナーチャイルドセラピーと呼ばれるセラピーで、過去のトラウマや子どもの頃に傷ついた経験を癒す際に使われる手法です。

彼のパターンのルーツを探っていくと、彼の中に寂しいのをずっと我慢している小さな男の子がいました。

寂しいと言ったら、お父さんに迷惑がかかると思ったんでしょうね。

寂しさを口に出さずにじっと一人で我慢していました。

その頃に抱え込んでしまった想いをセラピーの中で癒していきます。

インナーチャイルドセラピーをすると、彼の心の中から、お父さんとはぐれて2時間くらいじっと一人で耐えているイメージが出てきました。

すごく寂しそうで、でもそれを我慢している男の子です。

勇樹さんに「その子に近付いていってあげてください」とお願いしました。

そして、イメージの中で、その子が十分に安心できるまで、「お兄ちゃんがいるから大丈夫だよ」声をかけてあげたり、抱きしめてもらいました。
 

その子が安心できたら、一緒にはぐれたお父さんにイメージの中で会いに行きました。

お父さんは仕事をしていて、忙しそうです。

その子に「お父さん、忙しいところごめんね。ちょっと話を聞いてほしいんだ……」と言ってもらいました。

でも、今は仕事中だからと断られ、その子は余計に寂しさを感じてしまいます。

「お父さんは仕事だし……」と、寂しさを我慢している様子です。

私「その子に、『お父さん、寂しいよー!』と背中を向けているお父さんに大声で叫ばせてあげてください。」

彼の中にすごい抵抗が出てきました。

ずっと寂しさを我慢していたので、それを口に出すことは彼にとって最大のタブーでした。

言いたくない……という葛藤が伝わってきます。

ですが、敢えて、もう一度お願いしました。


「きっと、その子はずっと寂しいっていうことを我慢していたと思うんです。

ずっとずっと、寂しさを我慢してましたよね。

寂しいって言ったら、お父さんに迷惑がかかるんじゃないかって思っていたんじゃないでしょうか。

でも、今日はそれをその子に許してあげてほしいんです」

強い葛藤を乗り越えて、声をなんとか振り絞りながら、

「おやじ……。俺……。ずっと寂しかったみたいだ……」

お父さんに伝えてくれました。

私「それを聞いて、お父さんはどんな顔をしてますか?」

勇樹さん「すごくビックリしています」

私「それはなぜだと思いますか?」

勇樹さん「きっとそんな風に思ってたとは、思ってもなかったからだと思います」

私「では、少しずつお父さんに近付いていってもらって、お父さんにその子を抱きしめてもらってください」

勇樹さん「はい」

私「その子はどんな様子でしょうか?」

勇樹さん「すごく泣いてます」

私「それを見てどんな風に思いますか?」

勇樹さん「すごくよかったなぁって思います」

私「では、泣いているその子とお父さんをしばらく見ながら、曲を数曲かけますので、ちょっと今の気持ちを感じながら聞いてみてください」

お父さんへの感謝と敬意の気持ちを歌った曲を何曲かかけました。

彼の目から次々と涙が溢れてきます。

彼はとてもお父さんを尊敬されていました。

父の背中を見て育ったんでしょう。

彼がやりたいお仕事も、お父さんがされていることに近い仕事でした。

彼は後で今回のことを振り返ってくださったときに、幼い頃の記憶が蘇ってきたとおっしゃっていました。

勇樹さん
「小さい頃、土日はずっとおやじの仕事に付いていってました。

それをすごく楽しみにしていたんです。

でも、小学校低学年くらいのときに、

『上に言われて、もう一緒に連れて行ってあげれないかもしれない……』

とおやじに言われたんです。

すごくショックでした。きっと泣いたと思います。

そのことを思い出して、俺って、実はすごく寂しさを抱えてたんだなーと実感しました」

こんなふうに、小さい頃から抱えていた想いを発見し、感情で理解したときに初めて、深いところで自分自身とのつながりを感じることができます。

特に自立した男性は、弱さをとても嫌います。

そして、傷付くようなことがあると、もっと強くならなければとますます自立してしまうのです。

しかし、自分の中にある弱さや寂しさを認め、それを受け入れたとき、はじめて本当の強さを手に入れることができるのです。

それが、不思議と目に見えない自信にもつながっていきます。

すると、無意識になんですが、どこか雰囲気が変わったり、考え方に変化が訪れたりと、少しずつ変わっていきます。

この辺はとても説明するのが難しいのですが、

「あれ? 前となんだか感じ方が違うかも……」

とどこか感覚が変わったことに気がついたり、周りにも言われたりするようです。

かといってすぐに状況が良くなるわけでもなく、さらに、自分自身を試されるような過酷な状況が訪れることも少なくありません。

まだまだ、この時点では気が抜けないのです。

05.

パターンを変える

さて、もうひとつ、勇樹さんには課題がありました。

それは奥さんに責められたりしても、言い返したり怒ったりできないことでした。

「どうして怒れないと思いますか?」と聞くと、

「自分でもよくわからないんですが、仕事では後輩に怒ったりできるんですけれど、嫁に感情的にワーッと言われると、頭が真っ白になって何も言えなくなっちゃうんです」

とおっしゃっていました。

お話を伺っていくと、これは昔からのようで、今まで付き合った彼女にもあまり怒れなかったそうです。これも彼が持っていたパターンでした。

お互いに言いたいことを言い合える関係になるためには、このパターンを変えていく必要があります。

それは、今後の2人の関係をより良くするためにも、奥さんに男として見てもらうためにも必要なことでした。

そこで、セラピーの一環として、彼女に言いたいことを伝えていくようなロールプレイングワークをしました。

私から5歩くらい離れた場所に勇樹さんに立ってもらいます。

私を奥さんと見たてて、言いたいことを1つ言ったら1歩進む、という疑似ワークです。

心はとても単純です。例え、疑似体験だとしても、そこで感じる感情を心は「本当のこと」と捉えます。

そうして、心に成功体験を植え付けていく(※ここでは「奥さんに言いたいことを言えた自分」という感覚のこと)ことで抵抗感が薄れ、実際にも彼女に言いたいことを伝えやすくなるのです。

こういう疑似ワークはどれだけリアリティを感じられるかが重要になってくるのですが、勇樹さんは元来とても素直な方なので、そこは心配いらなかったようです。

しっかりと奥さんへの気持ちを感じてらっしゃいました。

(こういう疑似ワークは表面的にこなすこともできます。

しかし、それはただこなしているだけであり、感情は動いていませんので何の効果もありません。

セラピーでは感情を動かしていくことがメインになるからです)

彼の中から奥さんに対するさまざまな気持ちが出てきました。

自身の浮気を謝り、あまり家事を手伝わずにいたことを謝罪する言葉。

浮気は嫌だ、どうして?という気持ち。

子どもを産んでくれてありがとうという感謝。

離婚しても再婚をするつもりはないという意思。

そして、最後に出てきた言葉は「愛してる」でした。

心の奥底では奥さんを愛しているんだなぁとしみじみ思ったものです。

そして、いくつか男としての魅力をアップさせるための宿題を出して、カウンセリングは終了しました。

終わった後、勇樹さんは「今日の夜、奥さんに言いたいことを言ってみようと思います」とスッキリした顔で帰って行きました。

06.

話し合いによる決裂

回のカウンセリングで、意気揚々として帰っていった勇樹さん。

しかし、またもや苦しい状況が訪れたようです。翌日に電話カウンセリングの予約が入りました。

カウンセリングの後、奥さんと話し合ったそうです。

そこでは、カウンセリングの効果もあったのか、言いたいことを伝えられたようでした。

ですが、彼女から(彼の)実家に戻るのは嫌だ、もう離婚したいといわれてしまったそうです。

離婚の前に別居してみてはどうかと提案しても、

「別居するなら結婚してる意味がないし、別居してもしなくても一緒だよ」

と取り付く島もない様子。さらに、

「私が仕事を辞めることになったのは子どもができて結婚したせいだ」、

「今までいろいろ私が譲ってきたのにさらに譲れっていうの!?」

など彼を責め立てるような言葉に、ひどく傷ついてしまうこともあったようです。

最終的には「夫婦としてやっていく自信がない」とまで言われてしまいました。

とにかく彼女は離婚の一点張りで、そこにはどこか頑固さもありました。

彼としても奥さんの実家に入っているため、気を遣ったり、譲っていた部分はあったはずなのですが、今の彼女にはそれが見えないようでした。

こういうときには、

「結婚しなきゃよかった」

「あなたとの結婚は間違ってた」

「今までの結婚生活は全部自分が我慢してたから成り立ってた」

など、今までなんだったの?って思うくらい、暴言や傷付くような言葉ばかりが発せられます。

ですが、それは彼女の中にある罪悪感がそうさせるんですね。

罪悪感など微塵も感じていないように見えますが、本当は罪悪感で押しつぶされそうになっているんです。

罪悪感がある分だけ、心にもないことを言って後戻りできないような態度を取ってしまうものなのです。

 

事実、彼女はfacebookで

「もう死んだ方がいいかも……」

とつぶやいていました。心の中では、自分のしたことを重く受け止めていたようです。


彼はこの状況に

「どうしたらいいかわからない……」

とほとほと困り切っていました。

 

なので、こんなお話をしてみました。

「奥さんは、本来は真面目で誠実な方ですよね。

そんな方が自分のしていることに気付かないわけないと思うんです。

心の底ではものすごく自分を責めていると思います。

そして、今言っていること全てが本心というわけじゃないんです。

女性は男性と違って後先考えず、その場の感情だけでものを言ったりします。

奥さんは、今は、離婚したい気持ちなだけなんです。

でも、この先同じように思うかはわかりません。

とりあえず、今は奥さんの要求をのんであげてください」

勇樹さん

「でも、僕が離婚に対してOKを出してしまったら本当に終わってしまうと思うんです」

「奥さんは今離婚したいと言っていますが、実際に判を押した離婚届を差し出されたわけではないですよね。」

勇樹さん「確かに……」

「口では離婚といっても、実際に行動に起こすってすごく勇気がいるんです。

なので、奥さんの言葉よりも態度や行動に目を向けてほしいんです。

そして、まずは、奥さんに目を向けるよりも、ご自分に目を向けてください。

勇樹さんはお仕事でも無理しがちですよね。

今までの疲労もたまってきてると思います。

なるべく、身体を休めたり、今まで我慢してたけどやりたかったことなど、好きなことをして、なるべく自分を労わってあげてほしいんです」

夫婦やカップルは潜在的につながっていると心理学ではいわれています。

浮気という問題でも、自分が苦しい分だけ、パートナーも同じように苦しさを抱えて過ごしていることも少なくありません。

そんなふうには全く見えなくても、です。

逆をいえば、勇樹さんが好きなことをするなどして心理的な余裕を作ってあげることが、奥さんの心に余裕を作ってあげられるんですね。

そして、状況としては最悪なのに、彼はこんな話をしてくれました。

「なんか不思議なんですけれど、何とかなるような気がしているんです」と。

腹を括って問題に向き合い、根底にある感情を癒していくとこの感覚がやってきます。

そして、この感覚は奥さんとの関係性が少し変わってきたことを暗示するものでもあります。

奥さんが激しく責め立てたり、暴言を吐いたりするのは、自立側から依存側に立つのを潜在的に恐れているためです。

無意識にでてくる心理的な抵抗ともいえます。

「良い兆しが出てますね~」といって電話カウンセリングを終了しました。

07.

裁判を起こすという気持ちから円満な離婚へ…

前回からの電話カウンセリングから一週間後、勇樹さんからご相談がありました。

奥さんとの折り合いがつかず、いろいろ考えて離婚しようかと思っているとのことでした。

「もう離婚しかない」

という奥さんの頑固さに、彼も苛立ちを隠せず、子どもを引き取るのは難しそうだし、なんだか自分だけが損するようで、面白くない……。

取れるものは取っておきたい、という気持ちから勢いで裁判を提案したそうです。

しかし、お話を聞いていくと、本当は離婚したくないし怒らせてドロドロしたらもう戻ってこないかもしれないという気持ちと、

今のままじゃ自分だけが損をしてなんだか悔しいという気持ちがせめぎ合っているようでした。

友達にも何人か相談したようなんですが、なかなか彼の気持ちを分かってくれなかったり、正論を言われてしまったりと、気持ちを理解してもらえない孤独感を感じているようでした。

こういうときは、なるべく勇樹さんの気持ちに寄り添うようにお話を聞いていきます。

今感じていることを理解し、ただ聞いてあげるだけでも心に安らぎが生まれるのです。

なので、こんなふうにお話しました。

「お友達の意見の中には、もちろん正しいことだってあると思います。

だけれど、なるべく、勇樹さんが今感じている気持ちを大事にしてあげてほしいんです。

なるべくなら離婚したくない気持ち、

でもなんだか面白くないし裁判したいと思う気持ち、

でもそれをしたら嫌われてしまうかも……という気持ち、

どれもあって当然だと思います。
私たちの心って空みたいなんです。

晴れてる日もあれば、曇りの日も雨の日もあります。

その時によって、心はすごく変化するんです。

なので、今自分はこんなふうに思ってるんだなーっていうように、

今感じている気持ちを認めてあげてください」

気持ちをいっぱい吐きだしたことでスッキリされた勇樹さんは、最後に、離婚し、今の仕事をやめ地元に戻ったときにどんなことをしようか考えている、とお話してくれました。


その声からは少しワクワクしている様子が伝わってきて、「心の中ではしっかりと希望が生まれているんだな」と感じたのが印象的でした。

もちろん、奥さんと離婚したくないという気持ちはあるんですけれど、最悪の状況のときに、明るい未来を描けるというのはとても大事なことです。

最後には「とりあえず、明日、裁判所に行ってこようと思います!」と元気を出されていました。

次の日、勇樹さんから報告がありました。

覚悟を決めて裁判所に行くと、もうこれで本当に離婚するんだな……と込みあげて来るものがあったそうです。

家に帰ると奥さんが離婚届を用意していました。

判を押している姿を見て、「もう終わった……」と思ったそうです。

その後、2人で離婚について話し合ったそうです。

養育費、会う回数、これからのこと……。

話していくうちに、彼女のお子さんに対する気持ちを知りました。

「子どもを引き取るんだったら、私は女を捨てる」と彼女が言った言葉……

それは、勇樹さんが初めてカウンセリングに来たときに言っていたことと同じでした。

親として子を思う気持ちが一緒だったことが、彼にとってとても嬉しかったようです。

そのとき、思わず涙を流し、奥さんの手を取って、「こいつを頼むな」と伝えたそうです。

それは、お子さんに対する気持ちを通して、2人が繋がった瞬間でした。

そして、自然と奥さんを許している自分がいたことに気付いたそうです。

「なんか離婚てもっとドロドロなもんかと思ってました。

一緒にはいられないけれど、嫁さんを信じてみようかと思います。
 

円満に離婚ができそうな感じです!」


と彼はメールで嬉しそうにおっしゃっていました。

08.

さまざまな気付きと自由を手にいれる

それから2日後、面談カウンセリングにいらっしゃった勇樹さん。

今後のことが決まったせいかスッキリした顔をされていました。

また、1ヶ月前と顔つきや雰囲気がずいぶん変わっていました。さまざまなことを経験し、一回り大きくなったような印象を受けたんです。

浮気、離婚、セックスレスなどの問題は、いわば試練のようなものです。これを乗り越えた先には、人として一回り成長できた自分がいます。

心理学の格言に「問題はギフトである」という言葉があります。

問題を乗り越えた先には、必ず大きな気付きがあり、この問題があったから成長できたと思わせてくれるからでしょう。

もちろん、本人は問題に必死で向かい合っているため、自分が魅力的になったとなかなか気付きづらいのですが、客観的にみるとちゃんと変化が訪れています。それは

「あれ? なんだかキレイになったなぁ……」

とか

「キリッとして男前になったなぁ……」

など、どことなく感じる雰囲気かもしれませんし、メイクや服装など外見的に変化する方もいます。

内側から溢れだす自信が、自然と魅力的にみえるのでしょうね。

勇樹さんも問題と向き合った結果、男性としての魅力がアップしていました。

もともと、責任感や男らしさを十分に備えていましたので、それに落ち着きや頼もしさ、そして年相応のやんちゃさなども追加されていました。

「ここ1か月でずいぶん状況が変わりましたね」

というと、

「ホントですね。1ヶ月でこんなに変わるのかと不思議なくらいです」

と、離婚寸前という最悪な状況なのですが、当の本人はとても穏やかで楽になっていました。

奥さんを心から許したことによって、心の安寧が得られたようです。
 

そして、今回のことでさまざまな気付きがあったと教えてくれました。

・今まで我慢しすぎていたけれど、我慢はよくないんだなと思ったこと

・周りが良ければいいやと今まで思っていたけれど、それはちょっと違うのかも…と思い始めたこと

・寂しさを抱えていたことに気付いたこと

・離婚してもしなくてもどっちでもいいかな……と思えるようになったこと

・離婚はけして失敗じゃないんだと思えたこと

勇樹さんは1回目の面談カウンセリングのときとは異なる考え方になっていました。

離婚に対して周りがどう思うか気にされていたのですが、それも気にならなくなったようです。

離婚というと、「どこか人生に失敗してしまった」という印象を持たれる方もすくなくありません。

世間体を気にして、自分だけが我慢していればいいやと離婚しない方も大勢いらっしゃいます。

けれど、離婚はけして失敗ではなく、今後、より幸せな人生を歩むための教訓のようなものです。

彼のような気持ちになれると、後は勝手にいい方向に進んでいきます。

今回のカウンセリングでは、自分自身の魅力を知り、それを受け取るイメージワークをしていきました。

彼がもともと持っている魅力に自分で気付くためです。

私たちは周りからどんなに「ここがあなたの魅力だよ」と伝えられても、それを受け取らなければ、その魅力は自分にはないものとしてしまいます。

ちょっと無意識を扱うイメージワークをしながら、彼に自分の魅力を受け取ってもらいました。

彼が感じたのはじんわりとした温かな気持ちで、「これが俺の魅力か~」としみじみと受け取っている姿が印象的でした。

また、その他に無邪気さを取り戻すようなワークや、女性関係で出てくるパターンを変えるようなワークをしていきました。

終わった後、彼はなんだかポカンとしていました。

帰り際も少しぼーっとしていたので気になったのですが、とりあえず様子をみてもらうことにしました。

すると、その夜、メールがきました。

家に帰ると、奥さんが飲み会に行く準備をしていて、それを見たら浮気が発覚したときの怒りや不安、悲しみがフラッシュバックしてしまったそうです。

ですが、30分くらいしたら、不思議とその気持ちがどこかに消えていってしまったそうで……。

「前だとその不安や悲しみの気持ちがずっと続いていたんですけれど、どこかに消えてしまいました。

まぁいっかって感じです(^^; 

なんかカウンセリングを重ねるごとにプラスな方向にむかってる気がします!」

と結果オーライの様子でした。

彼のポカンとした様子が気になっていたんですが、どうやらそれは嵐の前の静けさのようでした。

溜めこんでいた感情が噴き出る前の予兆だったんですね。

私たちの感情は、いくつもの層になっています。

一つの層を抜けると次の層が出てきて、最後には安心感や親密感の層にたどり着きます。

感情はただ感じてあげると自然に解放されるので、出てきた感情はそれが怒りでも悲しみでもその時感じきってあげることが大切です。

感じ続けると、自然と心が楽なところにたどり着きますので。

彼自身、何回かのイメージワークで『感情を感じきること』や『自分の心を扱うこと』に慣れていたようです。

このことは勇樹さんが成長している証でもありました。

09.

今度は自分が!?あるはずのない告白をされた日

それを裏付けるかのように、前回から1週間後、自分には起きるはずのないことが起こったと勇樹さんから相談がきました。

奥さんではない女性から告白されたそうです。

嬉しい半面、奥さんに対してすごく悪いことをしている気がして困っている、という内容でした。

「パートナーが浮気をしているんです」

という問題からスタートし、自信を付けていくと、逆に今度は「自分が浮気したい」という気分になることが良くあります。

不思議なんですが、ちょうどいいタイミングでそのお相手も現れることが多いので、前もって

「あなたが浮気しないように気を付けてくださいね」

と釘を刺しておくくらいです。

夫婦やカップルといったパートナーシップはバランスをとるものです。

片方が浮気したとしても、それはもともと2人の関係に『浮気の種』があったということ。

相手だけの問題ではなく、自分自身の問題でもあるんです。

なので、「浮気したのは奥さん(旦那さん)だったけれども、一歩間違えば、自分の方が浮気してたかも・・」という事態に陥りやすくなるんですね。

勇樹さんにも、魅力をアップし自信が出てくるとそういう相手が現れることは事前にお伝えしていたんですが、まさか自分に起こるとは思ってもいなかったそうで、

「これが嫁さんだったらすごい幸せだったんだろうなぁ」

と嘆いていました。その相手、悪くいうと

「リハビリさん(くん)」

なんですが、奥さんから男性として見られていない分、すごく心が揺れ動いてしまうんですね。

相手の女性とは話も合うし、すごく好きだとアピールされるため、彼もまんざらでもない様子でした。

けれど、期待にこたえられないことや浮気しているような感覚もあり、嬉しさと罪悪感のせめぎ合いで苦しんでもいました。

それでも、勇樹さんの心には

「このまま離婚するんだろうけれど、なんとかなるんじゃないかって本当に思っているんです。どうなるか先は見えているはずなんですけどね」

と、不思議と未来に対する希望があったようです。

こういう出来事はカウンセラー側からみると、プロセスが確実に進んでいるなぁと感じる瞬間でもあります。

というのも、今までは奥さんが

心理的に強い立場(自立側)

彼が弱い立場(依存側)

で固定化されていたんですが、勇樹さんの魅力がアップしてきたことにより、少しずつその関係性が崩れていました。

強い立場に立てば、それだけ発言権が大きくなり、自分を見てもらえる機会も増えていきます。

それは、今まで依存側で感じていたみじめさや辛さをあまり感じなくなる、ということ。

実際、前は彼女に言いたいことを言えずにいたのですが、

この頃には気にせず発言できるようになっていました。

このことは、問題と向き合い腹をくくってきた結果、得られるご褒美でもあります。

なので、勇樹さんには、

「告白されるほど男性としての魅力がアップしている」

ということをきちんと受け取ってくださいね、

とお伝えしました。また、

「もしかしたら勇樹さんの方が浮気したくなるかもしれませんが、最後の一線だけは越えないようにしましょうね。今は気持ちが盛り上がってきたり、浮気しているような感覚になったりするかもしれませんが、そのままの気持ちを受け入れていきましょう。

 好かれて嬉しいんだなとか、浮気したくなるなとか思ってもいいので、浮かんできた気持ちをあまり押し殺さないようにしましょうね」

とお伝えしました。

「浮気したいなんて気持ちを持っちゃいけない!」

「いけないことをしている自分は悪いやつだ!」

と感じている気持ちを否定して、見ないようにすることは得策ではありません。気持ちを抑えようとしても、溢れ出るものは止められないのです。

無理に抑えようとすると、逆に感情に振り回されてしまい、気持ちが暴走してしまうことだってあるんですね。

「こんな風に感じている自分が嫌だから、いっそ両方から離れてしまおう」

と無理矢理一人暮らしをはじめてしまう方もいるくらいです。なので、そういったことが起こらないためにも、

「今、自分はそんなふうに感じているんだな・・」

と受容することがとても大事なんです。

さまざまな葛藤がありましたが、勇樹さん自身、感情と向き合うことに慣れていたので割と落ち着いていたようです。

この頃では、奥さんとの関係性も悪くなく、(ちょうどクリスマスの時期だったので)彼女に誘われて家族3人でイルミネーションを見に行く予定ですと、ちょっと嬉しそうでした。

感情と向き合うことに慣れていくと、心を揺るがす大きな出来事があっても、流されず冷静に対処できるようになっていきます。

こんなところにもカウンセリングの効果が出ていました。

10.

奥さんの提案に困惑する心 〜彼女を受け入れる〜

それから3週間後、突然、勇樹さんから相談がありました。

どうやら奥さんから、離婚ではなく別居にしない?と言われたようです。

もうすっかり離婚するつもりでいた彼は、その提案にただただ困惑してしまったそうです。

「離婚したらいっぱい自分の好きなことをして楽しんでやる!」

と、これから先を考えていたところに言われたので、

「え、ちょっと待って」

となんだか素直に受け入れられない様子……。

彼女がいなくても大丈夫なようにずっと自分自身に意識を向けてきたので、いざ彼女が戻ってきそうな気配を感じると、逆にそんな違和感を感じるようになります。

それでも、「奥さんがメールをしてると気になってしまう」ともらしていたので、心の奥底では、気持ちはちゃんと彼女に向いていたようです。

この頃には、彼女の口から

「なんだか離婚する意味がわからなくなってきた。やっぱり子どもにはお父さんが必要だし……」

という言葉も出てきて、彼女自身だいぶ冷静になってきたようでした。

告白された女性に対しては、あまり連絡はとらず、距離を置いている状態でした。

勇樹さんの中で「また同じことを繰り返したくない」という気持ちが強かったそうです。

この頃には、奥さんとお子さんの3人で出かけることも多くなったそうで、家族としての交流も深まっていたようです。

そして、あるとき、結婚後、初めて奥さんと2人っきりで出かける機会があったそうです。

それは言わばデートのようなものだったそうで、まさに1年半ぶりのこと。

口では「別に普通でしたよ」というものの、話しぶりがなんだか嬉しそうでした。

また、久しぶりに地元の友達と遊び、「バカみたいにはしゃいですごく楽しかったです!」と話す彼は、年相応のやんちゃさも出てきて、とても充実している様子がうかがえました。

さて、この時点で、心理的な抵抗が強かったのは勇樹さんの方でした。

奥さんを信用しきれなくて、疑う気持ちが強かったのです。

また、浮気された直後のような彼女を強く求める気持ちがないため「昔より好きが薄れている」と不安になるそうです。

それは、カウンセリングを通して彼女に対する執着を手放していった結果なのですが、逆に「奥さんに対する愛情が薄れたのかな?」と感じてしまうようです。

なので、今回は奥さんと向き合い、受け入れることをメインにセラピーをしていきました。

近付いてくる彼女を受け入れ、受け止める、そして新たな関係を作っていくようなイメージワークです。

イメージの中で、彼女と向き合ってもらうと、最初に出てきたのは「恥ずかしさ」でした。

こんなふうに、「恥ずかしさ」が出てくるのは、2人の間にもう一度ロマンスがやってくるサインでもあります。

彼女が勇樹さんに近付いてきたとき、徐々に許しの気持ちがでてきました。

しかし、手の届く距離に近付いたとき、ものすごい抵抗感が出てきて、一定の距離をあけたままそれ以上近付けなくなってしまいました。

この一定の距離は、2人の心の距離を示していました。もともと2人は夫婦になりきれていませんでした。

もちろん、法律的には夫婦なのですが、お互いの心には、どうしても埋められない距離があったんです。

そして、その距離をどちらも埋めないまま夫婦生活を続けていたことで、どこか遠慮がちで我慢しやすい関係を作りだしてしまいました。

それが浮気という問題にまで発展してしまったのです。

そこで、その抵抗感を取り除くようなイメージワークをしていきました。勇樹さんが感じている抵抗感をイメージの中で物質化してもらいます。

すると「コンクリートの50mくらいの高い壁」と出てきました。

イメージの中で、その壁をなんとか通り抜けられるようにしていきます。

通り抜けた後は、「なんだかスッキリしました! 今なら奥さんに近付けそうです」と、思ったよりもすんなりと彼女を受け入れる準備ができました。

ちゃんと彼の心の奥底では奥さんを許し、受け入れる気持ちがあったんですね。

そして、イメージの中で彼女を受け入れていくと、どこか久しぶりのような気がして、嬉しく感じている勇樹さんがいました。

イメージワークを終えた後は、まるで一仕事終えたような脱力した顔をしていました。

それを見たとき、もうカウンセリングに来なくても良さそうだなぁと感じたのを覚えています。

11.

エピローグ 〜訪れた転機〜

それから2週間後、奥さんから「別居もやめない?」という提案があったそうです。

そして、お仕事の方でも、朗報がありました。かねてより地元でやりたかった仕事に来年の4月から就けるようになったそうです。

それと同時に、今の会社の上司から上の役職にならないか?という提案があったそうで、色々なことが同時にいい方向に進んでいました。

彼から頂いたメールにはこんなことが書かれていました。

「一緒にいられて嬉しい半面、まだ(勇樹さんの)実家に行くかどうかについての答えがでてないので、不安なところもあります。

ですが、なんとかなりそうな気がしてます。

先生のおかげで自分の気持ちも変化してきて今があると思います!

まだスキンシップなどの課題はありますけど一応報告させて頂きたいと思います」

そう、2人がやり直すと決めた時に残っている問題は、1年後、彼が地元でやりたい仕事に就いたときに、奥さんが彼の地元に付いてくるかどうかでした。

今は奥さんの実家に住んでいます。勇樹さんの地元へ引っ越し実家に入ることは、奥さんにとって心理的抵抗が強いことです。

地元を離れ、知らない土地に嫁ぐことは、2人にとって強い絆がないと乗り越えられないこともいっぱい出てくるでしょう。

けれど、幸いなことに彼が地元に行くまでには1年間の猶予があります。その間に、愛情の育てなおしをするんだろうなと思います。

そういう意味では、本当にプロセスってよくできているなぁと感じます。

また、スキンシップやセックスレスの問題もありますが、きっといろいろな苦しみを乗り越えていった勇樹さんなら、なんとかすると思っています。

苦しみを乗り越えた分、それが自信となりますから。

福田さんご本人にご確認いただいた時のご感想です。

「全て読ませていただきました。
あのころの辛い記憶や寂しい気持ち、色んな思いが蘇って思わず涙してしまいました。

けど、感情を受け取ることができているのか自然とスッキリして懐かしさも同時に感じました。

僕が忘れてたことも書いてあったりして、よりリアルな印象を受けました。

まだまだ実家に帰ること、セックスレスの問題はありますけど、先生のおかげもあって今があると思います!

先生もおっしゃっていたように、これから一年かけて絆を作って一緒に実家に帰れたらと思います。

短い期間でしたが、本当にありがとうございましたm(_ _)m

また何かの機会がありましたらよろしくお願いいたします。」



いかがだったでしょうか?

勇樹さんという一人の男性が、奥さんの浮気と離婚という問題に向き合っていく姿を描かせていただきました。

同じように浮気や離婚で悩んでいる方にとっては、今後の方向性や希望を見いだせるものになったのではないかと思っています。

また、それ以外の方にとっても、共感できるところなども多くあったと思います。

みなさまのお役に少しでも立てたら本当に幸いです。

最後に、掲載を快くご了承してくださった福田勇樹さんには、仮名ではありますが、この場を借りて心より感謝を申し上げます。

本当にありがとうございました。